下咽頭がんは、早期に発見する事が出来れば、手術や放射線治療で完治する可能性があります。しかし、下咽頭がんは頸部リンパ節に転移しやすく、がんが大きくならないと症状が出ないので、6割以上の患者さんが初診時にはすでに喉頭に浸潤していたり、頸部リンパ節へ転移のある進行状態で発見されます。
下咽頭がんは病期(ステージ)と全身状態により異なりますが、5年生存率は1期:約100%、2期:約75% 3期:約67%、4期:約32%です。
下咽頭がんのTNM分類と病期(ステージ)分類
下咽頭がんでは、原発腫瘍の大きさ(T:primary Tumor)、リンパ節転移の有無(N:regional lymph Nodes)、他臓器への転移の有無(M:distant Metastasis)で病期(ステージ)が決まります。これをTNM分類といいます。病期、全身状態、年齢、など総合的に検討して治療方針を選択します。
下咽頭がんのTNM分類
《T:原発腫瘍(T:primary Tumor)》
原発腫瘍の広がり(深達度など) | |
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T1 | 下咽頭の1亜部位に限局し、腫瘍の最大径が2センチ以下 |
T2 | 片側喉頭の固定がなく、下咽頭の一部を超えるか、隣接部位に浸潤。 または最大径が2センチを超えるが4センチ以下の腫瘍 |
T3 | 最大径が4センチを超えるか、または片側喉頭の固定する腫瘍 |
T4a | 甲状/輪状軟骨、舌骨、甲状腺、食道、または前頸筋および皮下脂肪などの中央分軟部組織に浸潤する腫瘍 |
T4b | 椎前筋膜に浸潤し、頸動脈を完全に包み、あるいは縦隔構造に転移する腫瘍 |
《N:所属リンパ節(regional lymph Nodes)》
がん細胞のリンパ節への転移の有無と広がり | |
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N0 | 所属リンパ節の転移を認めない |
N1 | 同側の単発性リンパ節転移があり最大径が3センチ以下 |
N2 | 同側の単発性リンパ節転移で腫瘍の最大径が3センチを超えるが6センチ以下。 または同側の多発リンパ節転移で最大径が6センチ以下。 または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6センチ以下 |
N2a | 同側の単発性リンパ節転移があり最大径が3センチを超えるが6センチ以下 |
N2b | 同側の多発リンパ節転移があり最大径が6センチ以下 |
N2c | 両側あるいは対側のリンパ節転移があり最大径が6センチ以下 |
N3 | 最大径が6センチを超えるリンパ節転移 |
《M:遠隔転移(distant Metastasis)》
原発から離れた臓器への遠隔転移 | |
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M0 | 遠隔転移を認めない |
M1 | 遠隔転移あり |
下咽頭がんの病期(ステージ)分類
ステージ | 進行度 |
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ステージ1 | がんが下咽頭の一つの部位にとどまっており、2cm以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない。 |
ステージ2 | がんが下咽頭がんの2つ以上の部位におよぶが、2cm以上4cm以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない。 |
ステージ3 | がんが下咽頭の1つあるいは2つ以上の部位におよび、同側の頸部に3cm以下のリンパ節転移が1個のみ認められる。 がんが咽頭の中に入りこみ、声帯が動かない状態か、がんの大きさが4cmを超え、頸部リンパ節転移がないか。 あるいは同側の頸部に3cm以下のリンパ節転移が1個のみ。 |
ステージ4 | がんが下咽頭を越えて周囲の組織に広がっている。頸部リンパ節転移が2個以上認められ、6cmを超える大きさになる。 あるいは反対側の頸部に出現した場合。遠隔転移が認められる。 |
下咽頭がんの治療
外科手術
上咽頭がんでは、放射線治療の効き目がみられない場合に手術が実施されることもあります。基本的にどの病期でも放射線治療、放射線治療+抗がん剤治療が中心になり、ほとんど手術は行われません。
・下咽頭+喉頭+頸部食道切除術
下咽頭および喉頭の全て、頸部食道の一部または全部を切除する方法で、現在、最も多く行われている術式です。下咽頭がんが喉頭に深く浸潤している場合に行われます。切除後は、腸の一部または皮膚を移植して食道を再建します。再建後の食事は今までどおり行えますが、喉頭は全部切除しますので発声はできなくなり、呼吸するための穴が一生涯頸部に開いたままとなります。術後の発声については、トレーニングで食道発声を習得したり、人工喉頭などの器具を使用することによって可能となります。発声による意思伝達が全くできなくなるわけではありません。
・下咽頭+喉頭+全食道抜去術
下咽頭、喉頭の切除については、先に述べた下咽頭+喉頭+頸部食道切除術と同様に行われ、食道についても全て摘出します。切除後は、胃を持ち上げて咽頭の粘膜と縫合します。
・下咽頭部分切除術
下咽頭の一部を切除し、咽頭の一部または全てを温存する術式です。がんが喉頭に浸潤していない、または浸潤していても軽度の場合に行われます。切除後は、手足の皮膚や腸の一部を必要な分だけ切り取って、手術によって欠損した咽頭と食道の間に移植して再建します。術後発声は可能で、気管孔も必要ない場合がほとんどです。下咽頭部分切除術は食事や発声の機能を温存でき、QOLの低下が少ない方法ですが、がんの広がり具合や年齢、持病の有無などにより、この手術が行えない場合もあります。
・頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)
頸部リンパ節に下咽頭がんが転移している可能性が高い、または転移している場合に行います。下咽頭に対する手術と同時に行う場合や、下咽頭への放射線治療後に頸部転移に対して単独で行う場合があります。転移リンパ節の大きさや周囲への浸潤の程度によって、血管や神経を残すことができない場合もあります。
・内視鏡手術
下咽頭がんは、すでに進行している状態で見つかることが多く、内視鏡手術の適応範囲は限られています。早期で発見された場合などの上皮内がんのうちは、下咽頭がんにおいても、胃や食道、大腸のように内視鏡手術が可能な場合もあります。
放射線療法
放射線治療は、高エネルギーのX線などの放射線を利用してがんの増殖を抑える治療法です。下咽頭がんでは、放射線のみで治療を行うか、手術や抗がん剤治療と組み合わせて行われる場合があります。
・手術前放射線療法
手術前に放射線治療を行う場合、咽頭上部から鎖骨部の広い範囲に4週から5週の放射線治療を行い、終了後1ヵ月以内には手術をします。
・手術後放射線療法
手術でがんを切除しきれなかった可能性がある場合、術後に放射線治療を行います。広範囲にわたって、5週から6週の放射線治療を行います。また、がんが残っている可能性が高い部位に照射範囲を限って、治療を行う事もあります。
・化学放射線療法
下咽頭がんの化学放射線療法では、音声機能は保つことができますが、嚥下機能は低下するという報告が出ています。しかし、抗がん剤との組み合わせによる治療方法が進歩してきたおかげで、手術と同等の治療成績や効果が期待できます。
化学療法
化学療法とは抗がん剤による治療のことで、広い範囲のがん細胞を攻撃する治療法です。 現在、下咽頭がんの治療では、病期にかかわらず抗がん剤治療を単独で行うことはほとんどなく、手術や放射線治療と併用して使用されます。
下咽頭がんの場合、抗がん剤はシスプラチン、5-FU、ドセタキセル、セツキシマブなどが使用されます。下咽頭がんが周囲臓器に深く浸潤している場合や、頸部リンパ節転移が両側性や多発性の場合に抗がん剤治療が行われます。このような進行がんである場合は、大きな手術をしても再発する確率がとても高く、手術を最小限にとどめて機能温存を優先し、抗がん剤と放射線を組み合わせて行います。
《下咽頭がんで使用される抗がん剤》
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