前立腺がんの中には、進行が遅く寿命に影響しないと考えられるものもあります。治療前の検査で、前立腺がんの性質を見極め、余命に影響がないと判断されたらPSA監視療法を、治療が必要な場合は患者さんの状態や前立腺がんの進行度から治療方法が決められます。

PSA監視療法

前立腺生検の結果、悪性度が極めて低く、すぐに治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合に選択されます。
3~6か月ごとに直腸診とPSA検査、1~3年ごとに前立腺生検を行います。そして、病状悪化の兆しがみられた時点で治療開始を検討します。

基準値
基本0.0~4.0ng/ml
根治的放射線治療後PSA最低値+2.0ng/ml
根治的全摘術後2回連続で0.2ng/ml以上

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フォーカルセラピー

フォーカルセラピーとは、前立腺を温存するための治療で、部分治療や局所治療ともよばれます。前立腺生検や画像診断から低リスクと診断された患者さんでなければ適応とならず、無治療領域があるため、そこに癌が存在した場合は不完全治療に陥る可能性があり、まだまだ確率すべき問題点が多く十分な根拠が得られていないのが現状です。

フォーカルセラピーの治療方法としては、主に高密度焦点超音波療法(HIFU)、凍結療法、小線源療法が用いられ、小線源療法以外はまだ保険適用外です。

1)高密度焦点超音波療法(HIFU)

体内で前立腺がんに焦点を定めて高密度に超音波を照射し、がん細胞を熱と衝撃で破壊する治療方法です。

2)凍結療法

がんに特殊な針を刺し、アルゴンガスを注入してがん細胞を凍結させます。凍結が溶けたら、また同じ方法で凍結させて、徐々にがん細胞を壊死させます。

3)密封小線源療法

低線量の放射線を放出する物質を容器に密封し、前立腺内に埋め込んで内部から放射線を当てる治療方法です。

手術

前立腺の中に多発する性質がある前立腺がんは、基本的には前立腺全摘除術になります。また、小さな臓器であることから部分切除が難しく、全摘が生命にかかわらないことも理由として挙げられます。手術は根治を目的に行われるため、前立腺全摘術が推奨されるのは、手術することでの期待余命が10年以上の抵~中間リスクの前立腺がんとなります。

手術の方法としては、開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット手術があります。

1)開腹手術

全身麻酔を硬膜外麻酔を行い、おへその下を切開して前立腺を摘出します。

2)腹腔鏡手術

腹部に5~6か所の小さな穴を開け、炭酸ガスで腹部を膨らませて内視鏡や専用の器具で手術を行います。
開腹手術に比べて出血量が少なく、回復も早い低侵襲な治療方法です。

3)ロボット手術

腹腔鏡手術と同じで腹部に5~6か所の小さな穴を開け、内視鏡や器具を持つ手術用ロボットを遠隔操作して手術を行います。開腹手術に比べて創が小さく、腹腔鏡手術と比べても回復が早いといわれています。

前立腺全摘除術の手術法別の特徴

入院日数出血量合併症
開腹手術14日間多い多い
腹腔鏡手術7日間少ない中程度
ロボット手術7日間極めて少ない少ない

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放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射し、がんを小さくする治療方法です。
前立腺がんでは手術と同様で、主に根治を目指して放射線治療が行われるため、比較的す起きの患者さんが対象となります。手術と比べて身体的な負担も少ないことから、70歳以上の高齢の方にも行うことができます。

また、根治をもう敵とせず骨転移などによる痛みの緩和を目的として行うこともあります。

前立腺がんの放射線治療には、体外から放射線を照射する外部照射療法と、線源を前立腺に埋め込む組織内照射療法、そして重粒子線治療も一部の前立腺がんで適応となっています。

1)外部照射療法

体外から患部に放射線を照射する方法で、がんが前立腺の周囲や精嚢に浸潤していても適用となります。
放射線の線量が高いほど効果も上がりますが、線量を上げると周囲の組織に悪影響が出てしまいます

近年、その問題を解決するために開発されたIMRT(強度変調放射線治療)が主流となってきています。IMRTでは、コンピューターで照射範囲を前立腺の形に合わせ、放射線に強弱をつけ、さらに多方向からの放射線を組み合わせることで必要な部分に強い放射線を当てられます。また、周辺組織への線量は抑えられるため、不必要な被ばくも避けられます。頻尿、排尿痛などの副作用が現れることもありますが、従来の放射線に比べると軽度です。

外部照射療法では、重粒子線や陽子線などの粒子線を使う治療法もあります。通常、1日1回週5回の照射を約1ヵ月半続けますが、入院の必要がなく、通院で受けられます。


2)組織内照射療法(密封小線源療法)

小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封した放射線源を前立腺の中に入れて体内から照射する方法です。外部照射療法と比べても副作用は軽く済みます。3~4日程度の入院が必要となります。


3)重粒子線治療

放射線の中で電子よりも重いものを粒子線、ヘリウムイオンよりも重いものを特に重粒子とよびます。
通常、放射線治療で用いられるX線と比べて高い殺腫瘍効果とがん病巣に集中して照射されるため、副作用が少ないという特徴があります。

転移や再発のリスクが低い場合は重粒子線単独療法、中間~高リスクの場合はホルモン療法との併用が推奨されています。

重粒子線治療の適応条件原発腫瘍の広がりがT1c~T4で、リンパ節転移や遠隔転移のない前立腺がん
受けられる施設のある府県 ※2023年6月時点山形県、群馬県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、佐賀県

放射線治療の副作用

前立腺がんの放射線治療の副作用として排尿障害(頻尿、排尿痛、血尿、排尿困難など)や直腸障害(頻便、疼痛、下痢など)、性機能障害があります。最近はIMRTや小線源療法、重粒子線治療が主流となってきており、副作用も低減されてきています。

ホルモン療法(内分泌療法)

前立腺がんは精巣や副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)の刺激で進行します。
男性ホルモンの分泌や働きを妨げるホルモン薬を投与し、前立腺がんの勢いを抑える治療がホルモン療法です。
放射線と併用して根治を目指すほか、腫瘍が大きい場合や浸潤している場合は手術前の補助療法としてホルモン療法が行われることもあります。転移や再発の進行がんの場合はホルモン療法が第一に選択されます。

ホルモン薬には精巣からの男性ホルモンをブロックするLH-RHアゴニスト製剤・GnRHアンタゴニスト剤と精巣や副腎から分泌された男性ホルモンを前立腺がんの細胞が取り込まないように阻害する抗アンドロゲン剤があります。

LH-RHアゴニストやGnRHアンタゴニストだけでは効果が不十分と判断された場合、抗アンドロゲン剤を併用するCAB療法が行われることもあります。

《前立腺がんで使用される主なホルモン薬

種類投与方法薬剤
LH-RHアゴニスト製剤注射リュープロレリン(商品名:リュープリン)、ゴセレリン
GnRHアンタゴニスト製剤注射デガレリクス(商品名:ゴナックス)
抗アンドロゲン剤内服ピカルタミド(商品名:カソデックス)、フルタミド(商品名:オダイン)、アパルタミド(商品名:アーリーダ)※遠隔転移を有する場合、ダロルタミド(商品名:ニュベクオ)※ドセタキセルとの併用、エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)※遠隔転移を有する場合

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去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)

前立腺がんでホルモン療法は効果の高い治療方法ですが、途中で男性ホルモンがなくても増殖する性質を前立腺がんが獲得してしまうことがあります。このような前立腺がんを去勢抵抗性前立腺がんとよびます。
去勢抵抗性前立腺がんでは、抗がん剤による全身化学療法と抗アンドロゲン薬によるホルモン療法が行われます。
また、骨に転移している場合はラジウム223という骨転移に対する放射線治療薬が使われることもあります。

去勢抵抗性前立腺がんで適応となる薬剤

一般的には初回のホルモン療法の走行期間が12か月以下の場合は抗がん剤の方が有効と考えられます。抗がん剤は先にドセタキセルを使い、効果が得られなくなったかカバジタキセルへ変更します。

一方、初回のホルモン療法の奏功期間が12か月以上の場合は、抗アンドロゲン薬による治療となります。抗アンドロゲン薬に関しては、どの薬を使った方がよいのかなどの使い分けが定まっていないため、それぞれの薬の副作用や患者さんの状態をみながら決められます。
抗アンドロゲン薬による治療では、1つ目の薬の効果が無くなれば違う抗アンドロゲン薬を使うのではなく、抗がん剤治療へ切り替えることもあります。

別の抗アンドロゲン薬に変更する(抗アンドロゲン交替療法)のか、抗がん剤治療へ切り替えるかのタイミングはケースバイケースですが、選択を間違ってしまうと治療が行き詰るので、患者さんの状況もみながら慎重に検討されます。

抗アンドロゲン薬から抗がん剤に切り替える前に、がん細胞を阻害する殺細胞作用を持つ女性ホルモン薬であるエストラムスチン(商品名:エストラサイト)や副腎皮質ステロイド薬による治療が行われることもあります。

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分子標的治療薬

前立腺がんの一部の患者さんにBRCA1またはBRCA2の遺伝子変異があることがわかっており、この遺伝子変異がある場合は分子標的治療薬も適応となっています。

前立腺がんで使われる分子標的治療薬

条件薬剤
PARP阻害薬BRCA1またはBRCA2オラパリブ(リムパーザ)

抗がん剤の副作用

ドセタキセルとカバジタキセルともに骨髄抑制の副作用が多くみられます。特に白血球の減少が多いので、場合によっては白血球を増やすジーラスタという薬を併用します。抗がん剤治療では初回は入院で副作用を確認し、2クール目からは通院での治療となります。

骨転移に対する治療

前立腺がんは骨盤や大腿骨などの骨に転移しやすく。骨に転移すると痛みを伴うこともあります。
痛みの緩和には鎮痛薬やステロイド剤が使われるほか、放射線の外部照射も痛みの緩和や骨折の予防として用いられます。

前立腺がんの骨転移に対する治療は以下の通りです。

1)骨転移に対する薬物療法

骨転移が起きた時は痛みを和らげる鎮痛薬だけでなく、骨転移に対する治療薬が使われます。

前立腺がんの骨転移の治療薬

薬剤投与方法働き
ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ)点滴(3~4週間ごと)骨を壊す破骨細胞の働きを抑えることで骨が壊れにくくなり、がん細胞が骨に住み着きにくくなります。結果、インタ三野症状緩和や骨折予防につながります。
デノスマブ(商品名:ランマーク)注射(4週間ごと)骨を壊す破骨細胞の働きを抑えることで骨が壊れにくくなり、がん細胞が骨に住み着きにくくなります。結果、インタ三野症状緩和や骨折予防につながります。
ラジウム223(ゾーフィゴ)注射(4週間ごと)骨に集積しやすいラジウム223を注射で体内に送ると、代謝が活発ながんの骨転移巣に多く集積します。そこからアルファ線が放出され、骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます。

ランマークやゾレドロン酸の副作用の中に顎骨壊死があり、この副作用が出ると食事に支障が出てしまうこともあります。
虫歯など治療が必要な歯があると、それが顎骨壊死の原因となるので、治療前には歯の治療は終えておくようにしましょう。

2)放射線治療

放射線を当ててがん細胞の量を減らし痛みを和らげたり、骨折や脊髄圧迫による下半身麻酔を予防する目的で行われます。

3)手術

骨転移によって骨折や脊髄圧迫が起きた場合や、骨を補強して骨折を予防する目的で行われます。

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